このページはオンラインやきもの販売店の店主、ロバート・イエリン氏のご好意によって掲載しています。
ロバート イエリン
1960年 アメリカ、ニュージャージー州生まれ。
1984年 来日。日本の陶芸に魅かれる。
1995年 光芸出版より著書「やきもの讃歌―ぐい呑と徳利」を出版。陶芸誌
「炎芸術」でコラム"日本の酒器百景"を執筆中。
現在、日本陶磁協会会員。英字新聞「The Japan Times」陶芸コラムニスト。
2000年11月よりやきものネットを主催。日本の陶芸を広く世界に発信 する。 |
|
やきものと酒 Ceramics and Sake 日々の生活の中では、人の心を引き付けて離さない自然な魅力を放っているものがある。それが、例えほんのつかの間のことであっても……。おいしい酒と、味わい深い日本のやきもの(陶器) の組合わせは、まさにそのよい一例であろう。やきものと一口に言うが、徳利(酒を供する瓶)とぐい呑み(カップ)だけに限らず、それは奥深い世界である。ここでは、そのやきものと酒が醸し出す独特の世界を紐解いていきましょう。
一般的な酒器の名称 Names of Common Sake Drinking Utensils
- 徳利。陶製のフラスコ状の瓶。酒を温めて供するのに使われ、保温力を保つため首の部分が細くなっている。形やサイズは多種多様
- 猪口(ちょこ)。酒を呑むためのカップ。色、形、サイズ共バラエティー に富む。通常下から上に広がりを持たせ、酒の香りをふんわりと漂わす
- ぐい呑み。小さなカップ。猪口よりも多少大きめである。芸術作品としてコレクションするのは、とても楽しいものである
- 升(ます)。杉で作った四方形の器。180mlまで入る。元々は米を計 る道具として用いられた。現在では升から酒を呑む人は少ないと思われるが、その木の匂いと味が今日の上質な酒のデリケートな味を圧倒してしまう
日本の陶芸への入門 A Quick Primer on Japanese Pottery 徳利とぐい呑みは楽しんで使えればいいのであって、細かなことをあれこれ と知っておく必要があるというわけではありませんが、その背景には素晴らしい文化が存在するのです。酒の世界も同様で、その地域特有のスタイルや歴史があるのは、どれをとってもよくわかります。
日本の陶芸では、いくつかの"流派"があります。いづれも地域に根ざし、その地の土の特色を生かしています。古くは桃山時代から、日本で主流をなしてきた6つの流派、窯があります。(六古窯)その名称と場所は下記のとおりです。
- 備前焼(岡山県)
- 信楽焼(滋賀県)
- 瀬戸焼(愛知県)
- 越前焼(福井県)
- 丹波焼(兵庫県)
- 常滑焼(愛知県)
また他の地方でも、江戸時代の生活様式から出てきた唐津焼(佐賀県)、萩焼(山口県)、志野焼(岐阜県)、京焼(京都府)などがあります。
そのどれもがその地特有の風貌を表してきますが、ものによっては共通点があることもあります。これはスタイルだけでなく、その地方の土に含まれる化学的な成分によるものもあります。鉄やマグネシウムなどの鉱物が融合する と、異なる色や表面の感じが出てきます。他にも窯焚きの薪にどんな木を使うかによってもユニークな作品が仕上がってきます。出来上がりの表面が粗く、ざらざらしたものもあれば、釉薬をかけると合いそうな滑らかなものもあります。
また同じ地方の土であっても、山のものと田んぼのものとでは出来上がりに違いが出てきます。加えて、窯の中の違いでも様子は変わってきます。窯にも"登り窯"と呼ばれる、大きく、斜面に沿って作られ、窯の中がいくつかの 部屋に分かれているものと、"穴窯"として知られるシンプルで単室のものもあります。陶芸家によっては、ほんの2,3時間しか窯焚きをしない人もあれば、出来るだけ長く2,3週間も火を入れて焼き上げられる作品もあります。薪 から飛ぶ灰と、土の持ち味の相互作用によって、様々な個性的風貌が現れてきます。ある一定の温度に達すると作品の色が変わります。これは、水やその他の要素が微妙な化学反応を起こすからです。
よい徳利とぐい呑みはどうやってできるか What makes a good guinomi or tokkuri? 当然のことながら、その陶芸家の持ち味ということになるでしょう。見た目の 美しさ、重さ、バランス、手に持った感じ、適度にきめの粗い口当たりなどが作品を評価する時の抑えておくべきポイントでしょう。
また、あまり口外したくないのですが、目の肥えたコレクター達が綿密にチェ ックするところといえば、"高台"です。ぐい呑みを置いた時に、底の部分にあたるリング状になっている部分のことです。目につかないところで密やかにしている、この一面の質と風貌が陶芸家の技術の高さをうかがわせるというものです。
サイズもすべてではありません。器の縁の部分は、その厚み、表面の感じ、カーブの具合いが酒を供する時の舌や味覚を左右させます。それゆえに味や香りを楽しむのに多大な影響をおよぼします。芸術的で感性の高い作品 は、ムードや飲む雰囲気にプラスになることはいうまでもありません。
日本の伝統的なやきものの素晴らしさに付け加えて重要なのが、酒の味をみることです。美しい徳利と猪口、またはぐい呑みが日本酒の世界 をより豊かにしてくれます。とにかくこの組み合わせは相性がいいとしか言えません。共に発達してきたやきものと酒の文化や伝統は、作品に反映されています。"まずは使い勝手のよさ。形は二の次です。" |